第３部は完結編である。第２部の公開時、エンディングの後には「めぐりあい宇宙（そら）編」の予告の字幕が現れ、正式サブタイトルが発表されるというサプライズが仕込まれていた。公開は1982年３月。第１部からちょうど１年後で、第２部からは８ヵ月後にあたる。１と２に比して間があいているのには特別な事情がある。
　「めぐりあい宇宙編」に使われた物語と映像素材は、ＴＶシリーズ第31話「ザンジバル、追撃」の中盤と第32話「強行突破作戦」を合体させたシークエンスの冒頭から最終回にあたる第43話「脱出」まで。ところが第34話「宿命の出会い」の制作作業中にアニメーションディレクターの安彦良和が急病のために入院し、以後はタッチしていないのである。
　それ以前の話数では安彦良和が作画監督としてクレジットされていない回でも部分的に手が入っているなど、かなりの部分の作画クオリティがＴＶ時点で引きあげられていた。その修正作業のボリュームから準備期間が必要だったということである。
　ポスタービジュアルは大河原邦男の「ラスト・シューティング」。頭部が破損した状態の主役をシンボルにすることも「玩具宣伝のロボットアニメ発」から離脱していくガンダム的な行為の一貫だった。フィルムもそれに呼応するようにハードなＳＦ＆ミリタリー描写が増大している。
　その代表的な例は、ホワイトベースの兵器類だ。ＴＶ版ではガンタンクが宇宙を飛行して戦闘に参加していたが、キャタピラのついたものが宇宙を駆けるビジュアルは玩具前提のもの。結果的にこれはガンキャノンに変更され、カイの機体が108（イチマルハチ）、ハヤトの機体が109とマーキングで識別をするようになっている。同時にコア・ブースターも２機になり、スレッガー機が005、セイラ機が006と同様に機体ナンバーが表記される。
　当時は大河原邦男のイラストにしたがい、モビルスーツのプラモデルに現用兵器のようなマーキングをデカールで貼りつけることが流行してた時期で、その志向とも合致した変更であった。ついにはア・バオア・クーのシーンで作画でマーキングを入れた旧ザクや量産型ゲルググが登場するなど、ファンサービスも行き届いた映画であった。
　編集方針的には、この最終ブロックは難産だったことが、富野総監督の当時のエッセイからうかがい知れる。それは全52話で構築されていたＴＶシリーズの物語が、放送短縮の結果、もともと圧縮された密度の濃いものだったからだ。割愛すべき部分が少ないうえに、アムロとララァの「めぐりあい」を中心にニュータイプの物語が佳境に入り、ジオン公国軍との戦争も終局に向かっていく。その中で起きるさまざまな人の「出逢いと別れ」にも決着が提示される。
　こうした多種多彩な要素を思いきった構成で凝縮し、安彦良和の流麗な作画で描きぬいた「めぐりあい宇宙編」はファーストガンダムの決定版といえるレベルで見事なピリオドを打ったのである。
　では、例によってＴＶシリーズとの具体的な差異点について以下に順次述べていこう。

(1)新作中心によるキャメル艦隊戦
　アバンタイトル（題名前）は恒例のスペース・コロニーの説明と戦争の背景が描かれ、ホワイトベースがたどってきた苦難の道がランバ・ラルの最期に凝縮され、鮮烈なものとなっている。
　メインタイトルのバックは地球から離れていくホワイトベース。この映画はこの後も地球側へカメラが戻ることなく、宇宙空間と宇宙植民地、宇宙要塞のみを舞台としていく。その宣言のような力強さがある。ホワイトベースはジャブローで戦力を補強されているが、それはやがて２機となったガンキャノン、コア・ブースター、そして２連装となったメガ粒子砲で端的に分かり、宇宙での艦隊決戦が間近いという雰囲気も増強されている。
　第２部ラストとつながった描写として、シャア大佐の戦艦ザンジバル追撃が第31話ベースで描かれ、すぐ第32話の挟撃作戦に物語が移るが、ここではモビルアーマー“ビグロ”と“ザクレロ”の登場が割愛。ビグロだけは埋め合わせとして後にア・バオア・クーで３機登場している。
　第32話のドレン率いるキャメル艦隊とホワイトベースの交戦は、大幅な新作カットの補強によって見ごたえのある宇宙戦闘となっている。ＴＶ版ではガンダムがビーム・サーベルでドレンのいるブリッジを直撃する展開が、直上からのビーム・ライフル直撃によって内部が大破し、ドレンがガラスに押しつけられるなど迫力が格段に向上している。

(2)サイド６の出逢いと別れ
　人の縁、そのめぐりあわせの不可思議さが本作のポイントである。それは中立地帯サイド６での人間模様によく現れている。ミライとその婚約者カムラン・ブルームの再会、アムロと父テム・レイの再会など、第33話と第34話の映像を中心にまとめられている。特に湖畔で白鳥をめぐってアムロがララァと対面するシーン、そしてシャアとエレカに乗って再会するシーンは大幅に新作が加えられ、イメージを一新している。なお、このエレカは大河原邦男の新デザインである。
　ここでは本来２回あったコンスコン艦隊との戦いが１回にまとめられ、その分、アムロがニュータイプ能力に本格的に覚醒し、リック・ドム編隊を一瞬にして葬り去るＴＶ中継もパワーアップして見える。中継を見るララァとシャア。あきらかに気を許した甘えた雰囲気を出すために、シャアはマスクを外して素顔を見せるよう変更が加えられている。
　リック・ドムのスカート内のバーニア、チベを破壊するとき逆制動をかけるガンダム脚部からの逆噴射も、大河原邦男による追加設定が起こされた。
　ガンダム活躍の中継を見て興奮したテム・レイは階段から落下し、頭部を強打して生死不明となる。これも「アムロの成長＝親離れ」という観点で考えると、劇場版での重要な増補改訂である。

(3)ジオン公国側の政治的策謀
　サイド６編直後、ジオン公国側でのザビ家各人の動きが完全新作でインサートされる。ギレンを中心にキシリア、ドズルと兄弟同士の会話で最終決戦への軍の動き、宇宙要塞、月面拠点の配備が語られる。一方で、デギン公王はダルシア首相に地球連邦側の仲介を依頼する。中盤以後の政治的・軍事的展開が唐突にならないようにという配慮であろう。
　ここではギレン・ザビの秘書として軍服の麗人セシリア・アイリーンが新キャラクターとして登場する。セシリアとダルシア首相の２人は、富野由悠季著による小説版で先行して登場していた人物で、安彦良和によって新設定が描きおろされている。
（「その２」につづく）

　
（文中：一部敬称略）