機動戦士ガンダム
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第10回 劇場版でパワーアップ、ガンダムの主題歌

 TVシリーズの『機動戦士ガンダム』は、あくまでも合金玩具を中心に商品を売るための児童向け番組としての性格を打ち出しながらスタートした。主題歌「翔べ!ガンダム」も、歌詞や曲調は従来のロボットアニメと大きく変わることなく、どちらかと言えば勧善懲悪を前面に出したものであった。それはアニメのビジネスを成立させるために、玩具のメインターゲットである児童への入り口を作るための必要条件と言える。
 劇場版ではこの児童向けという制約がはずれ、より高い年齢層(中高生以上)あるいはより広い一般層への訴求が試みられている。そうでなければ無料のTVと違い有料の映画興行は成立しないからだが、こうした「脱皮」のもっとも分かりやすい部分は、「主題歌の変化」に現れていたのではないだろうか。
 実は中高生以上の層に『ガンダム』が受けるという現象は、TV放映中からアルバム(キングレコード)セールスに現れていた。本放送中にTVアニメのBGMが2枚もリリースされることは、当時は珍しかった。そのセカンドアルバム「戦場で…」で安彦良和のイラストをジャケットに採用したことが、音盤の爆発的な売れ行きにつながる。
 放送終了後の1980年には新日本フィルハーモニー・オーケストラ演奏による「交響詩ガンダム」という版アルバムも発売され、音楽面での「青年から大人向けのガンダム」というコンセプトは決定的になるが、そこには「翔べ!ガンダム」のアレンジ曲はなかった。つまり、劇場映画化という新局面を迎えて、玩具のCM曲は役目を終えたという認識が醸成されつつあったわけだ。こうした流れを受けて、劇場版での主題歌は全3部作上映期間の1年間で、さらなる大きな飛躍を遂げていく。
 第1作目の主題歌は、「砂の十字架」。ここでは作詞・作曲にニューミュージックの巨匠・谷村新司が起用されている。『昴(すばる)』など数々のヒット曲を生んだ谷村新司の主題歌は、やしきたかじんが歌唱を担当し、壮大なスケール感でエンディングを締めくくる。歌詞の内容は、宿命を背負いながらも未知の世界に向かって生きるために戦うアムロ・レイたちホワイトベースのメンバーの心情を切々と歌い上げたものであった。
 直前のヒット作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』('78)では沢田研二、『ヤマトよ永遠に』('80)では布施明とヒット歌手が起用され、アニメ映画にメジャー歌手志向が定着しつつあった。そうした流れを受けての著名歌手による主題歌づくりだったが、「ガンダム」というロボットの名称や「モビルスーツ」等の造語もいっさい出て来ない思い切りの良さも含めて、谷村新司の起用は大きな話題を呼ぶ。
 続く第2作目の主題歌は、映画のサブタイトルと同じ「哀 戦士」。副主題歌「風にひとりで」ともども作詞は井荻 麟(富野由悠季監督のペンネーム)、そして作曲と歌唱は井上大輔である。井上大輔は「ランナウェイ」などCM曲のヒットメーカーとして知られる音楽家だ。当初は別の歌手を探す予定だったが、ブルーコメッツのメンバーだった井上大輔自身の歌唱の印象が良かったため、歌手も井上自身で行くことが決定された。
 地上編とも言うべき第2作目は、特に前半で戦場におけるアムロの「青春彷徨(ほうこう)」という性格が強くなっている。そのため、歌詞も巨視的なテーマを掲げた第1作目に対して「個」や「集団」の戦い、その激しさや悲惨さに寄り添った視点を出している。劇中でも「風にひとりで」は砂漠をさまようアムロの孤独なシーンに哀切たるバラードとして流れ、「哀 戦士」は南米ジャングルに向けてジオン軍モビルスーツの大群が空中から降下するシーンで、激しいロックのリズムを叩きつけるように流れる。
 TVシリーズから井荻 麟名義で歌詞を書き続けてきた富野総監督ならではの、作品テーマに密着した言葉づかいが、この第2作目にいたって映像と大きな相乗効果をあげ、激しいインパクトを観客に残した。「哀 戦士」のシングル盤はガンダムブームの燃焼をさらに拡大し、ベストテン番組に進出するという大きな成果を残している。
 第3作目の主題歌「めぐりあい」は井荻 麟とヒットメーカーの売野雅勇の共同作詞で、副主題歌「ビギニング」は井荻 麟の単独作詞。作曲・歌は変わらず井上大輔である。両曲ともに、人と人の縁とニュータイプ同士の戦いとララァの悲劇、そして仲間のもとへと帰還するアムロのドラマの終結を象徴して歌いあげる。「ビギニング」はララァとのたび重なる遭遇とエンディングに印象的に使われ、「めぐりあい」の方は最終回に相当する場面を絶妙に盛り上げた。この曲も大ヒットし、劇場版3部作のフィナーレを飾っている。この2曲には「ラジオボイス」と呼ばれる周波数帯域をわざと狭めた効果が組みこまれ、曲のスケール感をうまくコントロールしている。
 『機動戦士ガンダム』のヒットで、ロボットアニメに「リアルロボ路線」が生まれたと良く言われる。劇場版3部作が終わった1982年ごろから、そんな作品群の主題歌からは「ロボットや必殺技の名前連呼」のような様式めいた部分が次第に消えていく。同時に「TVアニメの主題歌」がヒットチャート入りすることも珍しくなくなり、やがて80年代中盤以後は、TVアニメのオープニングがプロモーション的に扱われることも増えていく。
 アニメ主題歌は、このようにして子ども向けの音楽のサブジャンルから一般へと大きく変化していくことになるわけだが、その節目の一部も『ガンダム』によって刻みこまれたものと言えるのである。

 
(文中:一部敬称略)



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